「だが、今日、出仕してきた中井は髭を剃っておった。しかも、片方だけな」
「それはまた、どうしてです?」
「最初は、ふざけているのかと思った。それで、侬は叱责したのじゃ」
「中井様はなんと?」
「诚久よ」
その名を口にするだけで、肠が煮えくり返りそうになる。
「诚久様」
角都が、思い出すように名を舌の上で転がす。
「侬の従兄弟であり、义兄でもある。新宫党党首?国久叔父上の子じゃ」
「まぁ……その、诚久様がなんと?」
「中井の髭を诘ったそうな。さしたる武功もないのに生意気だ、とな」
「それは……お可哀想」
「中井の髭を、侬は爱でておった。それを知った上での暴言よ。だが、新宫党の势威に家臣は逆らえん。中井も泣く泣く髭を剃る事にした」
「ではなぜ片方だけ?」
「侬が、中井の髭を爱でておったからよ。すべてを剃るのは、侬に対する无礼になる、とな。爱い奴じゃ」
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「それは酷いお话にございますね」
「全くだ。まだあるぞ」
「まだあるのでございますか?」
「ああ。今度は熊谷新右卫门という家臣の话じゃ。诚久は横暴にも、自分の目に见える範囲では马に乗る事罢りならんと命じおってな。だが、この熊谷新右卫门という男は、刚の者。この命令にそのまま従うのは业腹だと、牛の背に鞍を置いて乗ったのじゃ」
「まぁ、牛に」
「そうだ」
晴久は颔きつつ、微かに笑みを漏らす。
「ま、何をお笑いに?」
「何。この话はちと愉快でな」
「愉快な话と闻いては気になります。どうぞ教えてくださいませ」
「うむ。熊谷新右卫门が牛に跨って进んでいると、これを见咎めた诚久が下马を命じたのよ。熊谷新右卫门はどうしたと思う?」
「先ほど、殿は新宫党の势威に家臣は逆らえないと仰せでした。やはり、熊谷様も泣く泣く従われたのでしょうか」
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「さにあらず。熊谷新右卫门はそのまま诚久の前を通り过ぎた。その际、なんと言ったと思う?」
「分かりません。勿体ぶらずに教えてくださりませ」
「いいぞ。教えてやる。だがな―――」
晴久は起き上がると、きゃっと小さく惊きの声を漏らす角都を、すっぽりと自身の両腕の间に抱き缔めた。
「と、殿?一体………」
「答えを教える。その代わり、夜伽を务めよ、角都。侬の女になれ」
耳元に顔を寄せ、热い吐息を吹きかける。
角都がぴくっと体を震わせ、その白い肌が朱に染まっていく。
身を固くはしているものの、晴久を振り解こうとはしない。
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